インターネットが進化し需要が日々移り変わる現代において、革新的なアイデアを創造し実現化していくためには従来のマーケティング戦略では立ち行かなくなっていると言われています。
そこで今回はGoogleやApple、P&Gなど、名だたる企業が製品開発に取り入れている「デザイン思考」について解説していきます!
この名前を聞くと「デザイナーの用語かな?自分には関係ないか」と思う方が一定数いるのですが、ちょっと待ってください。
デザイナー以外のビジネスパーソンにこそ、「デザイン思考」は重要なのです。
一見分かりにくい「デザイン思考」の概念を、簡潔に紹介します。
1.デザイン思考とは
1-1.そもそもデザインとは
1-2.ユーザー中心
2.デザイン思考の5ステップ
2-1.共感(Empathize)
2-2.問題定義(Define)
2-3.創造(Ideate)
2-4.プロトタイプ(Prototype)
2-5.テスト(Test)
3.デザイン思考を取り入れた事例
3-1.P&G(ブラウン)
3-2.Airbnb
3-3.任天堂(Wii)
4.広告担当者がデザイン思考を身につけるべき理由
5.まとめ
1.デザイン思考とは
1-1.そもそも「デザイン」とは
そもそも、「デザイン」という言葉にはさまざまな意味があります。
日本では「アート、芸術」と言った側面を想起しやすいですが、「デザイン思考」におけるデザインとは「問題解決」のことを指します。
「問題解決」を細分化すると、以下の3つの要素に分かれます。
- 外観
見た目の問題を解決するために、色や形を変えることで、人が思わず手に取りたくなるような美しい外観に変えます。- 設計
人の行動がスムーズでない場合、その問題を設計によって解決します。例えば、外見がきれいなwebページでも、どのボタンを押せば見たい情報が見れるのかわかりづらければ、訪問者サイトを利用しなくなるでしょう。この場合、webページの設計をデザインして、訪問者が適切に行動できるようにしなければなりません。- 関係
スマートフォンのアプリケーションを使い、身近な人とのコミュニケーションが円滑になったとします。それは、ただの通信機器という範囲を超えて、周囲の人との関係性をより意義あるものに変えたと言えるでしょう。
これら3つは、日本で言う一般的な「デザイン」領域の仕事に限らず、普遍的な問題解決能力として必要な考え方なのです。
1-2.ユーザー中心
デザイン思考の最上位概念は、「ユーザー中心」です。
当然といえば当然ですが、問題を持っている対象のユーザーがいて、初めてそれを解決する商品・サービスが成り立ちます。
そのユーザーを見ずに、商品の外側ばかりにこだわってしまうと需要とのミスマッチが発生してしまいます。
ペルソナとなる人物がその商品を使うときの顔を思い浮かべながら、アイデアを出していきましょう。
そして、「デザイン思考」では、そのユーザー分析から解決法を作成するまでのプロセスを大きく以下の5つに分けて行います。
2.デザイン思考の5ステップ
デザイン思考のもとにプロジェクトを進めるためのステップは、以下の5つです。
2-1.共感(Empathize)
「ユーザー中心主義」を掲げるデザイン思考において、ユーザーへの「共感」なくしてプロジェクトは始まりません。
「共感」を英語に翻訳すると、以下の2つの単語が出てきます。
- sympathize
- empathize
前者は、自身の経験に基づき、主に悲しいこと、かわいそうなことに共感するときに使われ「同情」により近い意味となります。
対して後者は、自身の経験の有無を問わず相手のことを「理解」するというニュアンスで、今回の共感は後者にあたります。
ユーザーに共感するには、実際にその言動や生活環境を観察し、知る必要があります。
革新的なアイデアは、ユーザーの行動に潜むインサイトから生まれます。
インサイト:
本人も気付いていない驚くべき事実や、外からは分からない潜在的な心の動き
インサイトを見つける上で、障害となるのが「偏見」「思い込み」です。
先入観を排除して、得られる事実をありのままに受け入れます。
また、目の前の出来事をただ記録するだけではなく、疑問を持って掘り下げていくことで、のちに有益になる情報を手に入れることができるでしょう。
ユーザーにアプローチする具体的な方法としては、以下の2種類です。
観察する
ペルソナによる固定概念を取り払うために、まずはユーザーの行動を実際に観察することでその実態が把握できます。
「何を」「どのように」「なぜ」を重点に観察記録を取ることで、インサイトのヒントが現れます。
環境に応じて、観察方法にもいくつかあります。
直接観察する
ユーザーのもとに出向いて直接観察するという最もシンプルな方法です。
撮影してもらう
協力者に対象者の動画を撮影してもらい、そのデータを観察する方法です。
訪問できない理由がある場合や、第三者が介在しない環境でのシーンを観察したいときにオススメです。
類推する
どうしても観察ができない場合、イメージの画像や類似した状況の引用をブレインストーミング的に展開し、ユーザーのインサイトを掴みます。
広告主側ならまだしも、代理店などパートナーの場合は毎回実地踏査に行くのも難しいと思いますので、このように類似した情報をかき集めてユーザー像を想起するのが良いでしょう。
インタビューする
直接質問することで、ユーザーの思考を解き明かそうというものです。
行動観察だけでは分からない感情、価値観を記録し、インサイトの発見に活用します。
質問はあらかじめ決めておき、ひとつひとつの質問がインサイト発見に繋がるように構成しましょう。
インタビュー時にはほかにも、以下の事柄に注意します。
- 「ふだんは」「いつもは」などで行動を抽象化させない
- 特定の答えを誘導しない
- オープンクエスチョンで会話を展開する
- ジャスチャーなど非言語情報にも注目する
2-2.問題定義(Define)
ユーザーに関する情報を取得しただけでは、インサイトは形になりません。
散乱しているそれぞれの情報を「こんな悩みがあるのではないか」という仮説のもと繋ぎ合わせ、それがインサイトとなります。
共感段階で得た情報を整理してできたユーザーのストーリーを共有し、チーム内の様々な着眼点を活用してインサイトを作成しましょう。
このとき、問題提起を助けてくれる2つのフレームワークを紹介します。
ペルソナ
混同されがちなターゲットとペルソナは、想像する対象が「集団」か「個人」かで異なります。
事実に基づくペルソナを作成することは、ユーザーが抱える問題の発見に大いに役立ちます。
ペルソナについての詳細は以下の記事で詳しく紹介しています!
【入門】ペルソナを究極に分かりやすく解説!マーケティング関係者必見
ユーザー像を想像しやすくするだけでなく、問題解決のために必要なさそうな情報をふるいにかけ必要な情報を注視できるというメリットもあります。
カスタマージャーニー
ペルソナが商材の購入に至るまでの行動や思考を時間軸に合わせて図式化したものをカスタマージャーニーと呼びます。
ペルソナ作成ののち、行動やそれに付随する思考を順序よく並べることで、悩みが顕在化したり商材の魅力に気づいたりするそれぞれのタイミングが可視化されます。
それにより根本となる問題の定義に大きく近づきます。
カスタマージャーニーについての解説はこちら
「カスタマージャーニー」を解説|広告配信のターゲットを明確にしよう
2-3.創造(Ideate)
ユーザーが抱える課題が見つけられたら、それに対しての解決策の案出しをします。
それが良いアイデアか悪いアイデアかは、この段階では分からず、のちのプロトタイプ、テストの段階で判明します。
そのため、大事なのは質よりも量で、複数パターンのテストができるよう幅広いアイデアをリストアップしましょう。
アイデア出しにはテーマ設定が重要で、コツは3つあります。
- 喜ばせたい人の問題点を明示する
- 製品やサービスそのものに焦点を当てすぎない
- レバレッジポイントの状況を広めに設定する
まとめると、テーマは“具体的かつ可能な限り広めに”設定するのが良いでしょう。
例えば、携帯電話について考えるときに「押しやすいボタン」をテーマにすると、具体的ではありますが「ボタンを押す」行為が前提にあるためアイデアが広がりにくいのです。
現に、iPhoneはタッチパネルを搭載することでそもそもボタンの概念を覆しました。
逆に、「携帯電話を使いやすくリ・デザインする」などといったテーマは曖昧すぎて具体的な解決法につなげるのが難しいです。
また実際にアイデアを創造するときは、6~7人のチームで一同に行うのが良いでしょう。
ブレインストーミングを繰り返し、他の人のアイデアへの乗っかり歓迎(ex. 鉛筆+消しゴム=消しゴム付き鉛筆)で、時には条件を仮定(ex. もし料金が〇〇円以下なら、もし大きさが握りこぶし大だったら)しながら、柔軟にアイデアを創出していきます。
2-4.プロトタイプ(Prototype)
プロトタイプとは直訳すると「試作モデル」で、WEBサイトやアプリの制作においては画面遷移などだいたいの構成を反映させたものになりますが、デザイン思考で言う「プロトタイプ」はもっと手前の段階を指します。
なぜなら、デザイン思考においては「安く、早く失敗する」ことが是とされているからです。
作成に時間を掛けず、前項で創造したアイデアをもとにユーザーと対話できるものを作りましょう。
オズの魔法使い
プロトタイプの作成方法のひとつに、「オズの魔法使い」というものがあります。
“システムのプロトタイプとしてUIを作成し、動作は裏でアナログ作業によって行う”というものです。
例えば、音声入力システムのUIだけ作成し、裏側では人間が手入力することでユーザーは「音声入力システムを使用した」という実感を得ることができ、正確なフィードバックが得られます。
画像参照:オズの魔法使い Wizard of Oz
リスティング広告界隈でも、(噂ですが)とある自動運用ツールを提供する会社が、ローンチ当時は運用者が裏側で手動運用しながら顧客満足度の向上とシステムの構築を図っていたと聞きます。
サービスが市場のニーズに沿えるようになるためには、非常に重要なステップです。
2-5.テスト(Test)
作成したプロトタイプをもとに、ユーザーに体験してもらい、フィードバックを受けるまでがテストのステップです。
これにより、プロトタイプの良し悪しが判明するので、ニーズにそぐわなかったものは改善しましょう。
複数のプロトタイプを体験してもらい、比較してもらうのがベターです。
このとき、こちらが考えた“ユーザーが抱えている課題”が見当違いだった、ということもありえます。
その時は問題定義のステップまで戻り、もう一度新しいプロトタイプを作成しましょう。
このサイクルを経て、アイデアはユーザーのインサイトを解決する「サービス」へと進化していきます。
3.デザイン思考を取り入れた事例
商品が売れる基準は、かつては「技術」力が大きな割合を占めていました。
しかし、技術革新が何度も起こる中で、機能面の大きな差別化を図ることは年々難しくなっています。
そこで「技術」中心だった商品企画は「ユーザー」中心、つまりデザイン思考のもと行われるようになり、その先駆者たちは世界的なシェアを一気に掴んでいきました。
3-1.P&G(ブラウン)
画像参照:商品公式サイト
世界的な規模の消費財メーカーであり、マーケティングカンパニーとしてもあまりに有名なP&G社が歯ブラシブランド「ブラウン」の新型を開発する際、時代の流れを読んで“IoT”を取り入れる方向で進んでいきました。
例えば、「歯がきちんと磨けているか感知する」「歯肉の敏感性を計測する」「音楽を流す」など、ユーザーのインサイトに沿わない「技術」中心の商品構想になっていました。
しかし開発におけるパートナー企業からそのアイデアを一蹴され、リサーチを通じて得た「専用充電器が面倒」「換えのブラシの注文が面倒」という2つの課題を突き詰めた結果、「USB充電」「ブラシ注文が連携アプリで可能」というシンプルかつ利便性の高いIoT歯ブラシができあがったのでした。
3-2.Airbnb
民泊のプラットフォームサイトとして世界的なシェアを持つAirbnbですが、創業当初は売上が伸びず資金難だったそうです。
そこで当時のベンチャーキャピタルから「写真が良くない」という指摘を受け、カメラ片手にサンフランシスコから4,600キロメートル離れたニューヨークのホストに直接会いに行き、写真を撮影しました。
これは施策として一見効率的ではありませんが、結果として当時の収益が週200ドルであったのに対して、写真の更新後の1週間の売上は400ドル、2倍に跳ね上がったのです。
これは宿泊先を選ぶユーザーが抱える「写真が綺麗でない部屋に泊まるのは不安」というインサイトを当時のベンチャーキャピタルの創業者が見越してのアドバイスだったのでした。
この発見で「ユーザー主義」の大切さを身を以て実感したAirbnb創業メンバーは以後もデザイン思考のダイナミックな施策を継続し、今では四半期で10億ドルを叩き出すユニコーン企業となっています。
参考:Airbnbを月商10万の企業からユニコーン企業に変えた考え方
3-3.任天堂(Wii)
画像参照:商品公式サイト
日本企業にもデザイン思考の成功事例はあります。
任天堂のWiiがその代表例と言われています。
当時の調査から、ゲームは“家庭環境を悪化させるもの”というイメージが強いことがわかりました。
たしかにこの時期、ゲームの長時間プレイによる「ゲーム脳」というネガティブな言葉がニュースでも使われていました。
そこで“家族の関係を良くするゲーム機”を目指して研究が重ねられ、1,000以上のプロトタイピングの末にWiiができあがったと言われています。
革新的だったあのリモコン型のコントローラーも、そうした試行錯誤の中で生まれた「インサイトを満たす」ものだったのですね。
4.広告担当者がデザイン思考を身につけるべき理由
我々のような広告代理業に従事する者も含めて、広告担当者がデザイン思考を身につけるべき理由はたったひとつです。
その方が「売れる」から
広告やマーケティングの使命は、どれだけ多くのユーザーに商材を認知させ、その後の購買・リピートまで誘導するかでしかありません。
つまるところ事業の売上に貢献できるかが基準です。
インターネットの発展、ライフスタイルの多様化に伴って、ユーザーをオーディエンス(群衆)単位でパターン化することが難しくなっているため、実在する人物への「共感」からペルソナを作成し問題を定義する必要があるのです。
ユーザーを見ず、机上のペルソナから始まって度重なる社内調整の末に生まれた最大公約数のようなアイデアでは、ユーザーのインサイトを突くことは難しい時代になっています。
逆にこれらのステップを踏んでサービスを改善できれば、ユーザーにとってのサービスの価値が上がっていくでしょう。
5.まとめ
- デザイン思考とは、ユーザーが抱える問題を発見し解決するための思考・行動フレーム
- 共感→問題定義→創造→プロトタイプ→テストの5ステップ
- 技術主義ではなくユーザー主義でアイデアを作るから結果的に売れる商品ができる
マーケティングや広告、商品・事業開発に関わる人は是非身につけたい思考法です。
また、「リスティング広告やってるけどそもそもこの商材って本当にニーズあるのかな…」という方、広告の訴求から考え直したい方は、インフィニティエージェントにご相談ください。
参照:スタンフォード・デザイン・ガイド デザイン思考 5 つのステップ
参照:デザイン思考 ファシリテーション ガイドブック