突然ですが、USJを再建したことで有名なマーケター、森岡毅氏の言葉をご紹介します。
企業の軍師ともいうべき「マーケター」の最初にすべき最重要な役割は「どう戦うか」の前に「どこで戦うか」を正しく見極めること。
そして正しい方向へ会社を無理やりにでも引っ張っていくことだと、私は考えています。
参照:USJを劇的に変えた、たった1つの考え方(角川書店)
企業のマーケティング担当は、施策のあれこれを考える以前に“そもそも今戦っている業界に勝算があるのか”を検討することが重要だと説いています。
そして、そこで役に立つマーケティングフレームワークのひとつに「ファイブフォース分析」があります。
ファイブフォース分析で業界の理解を深めることで、現状のマーケティング戦略が正しいのかを確認することができます。
社内でもよく使われる例えですが、そもそも“魚が居ない釣り堀では、いくら良い釣り竿を使っても釣れない”のです。
また、魚が多い釣り堀でも、周りの釣り師の腕前がプロ級ではなかなか釣りにくいことでしょう。
それらの環境要因に気づかずに、施策という名の竿を何度も投げ入れていては徒労に終わってしまいます。
この記事では、業界構造をクリアにする「ファイブフォース分析」の概要、事例などをご紹介します!
1.ファイブフォース分析とは
2.5つの力
2-1.買い手の交渉力
2-2.売り手の交渉力
2-3.業界内競争
2-4.新規参入の驚異
2-5.代替品の驚異
3.ファイブフォース分析の具体例
3-1.国内ガラケー業界
3-2.大塚家具
3-3.トヨタ
4.まとめ
1.ファイブフォース分析とは
ファイブフォース分析は、アメリカの経済学者マイケル・ポーターが推奨し始めた業界構造の分析に用いるフレームワークです。
その名の通り、業界の構造は「5つの力」によって成り立っているとされ、これらを見ることで業界を取り巻く環境の競争の激しさが分かります。
そして、競争が激しい業界にいれば収益性は低くなり、競争が限定的な業界にいれば収益性は高くなります。
「レッドオーシャン」「ブルーオーシャン」という言葉はご存知と思いますが、今の業界はどちらなのかも判断できるということです。
先述の森岡氏によれば、マーケティングは以下の5つのステップに分かれるとしています。
- 戦況分析
- 目的設定
- 目標(=ターゲット)設定
- 戦略策定
- 戦術選択
ファイブフォース分析はこのうち「戦況分析」にあたるフレームワークであり、マーケティング全体の基盤となるたいへん重要な項目です。
このほかにも、戦況分析の代表的な方法として「5C(3C)分析」や「PEST分析」などが挙げられます。
2.5つの力
ファイブフォース分析で分析の対象となる、「5つの力」について解析していきます。
5つの力は、3つの「業界内の要因」と2つの「業界外の要因」に分けられます。
2-1.買い手の交渉力
ここでの「買い手」とは、業界のターゲットとなる顧客を指します。
また、商品の販売を行うパートナー(ex. 商社, 小売店)もこれに含まれます。
“買い手の交渉力が高い”ということは、以下のような状態です。
- 商品の値段を下げることを要求する
- 品質を向上することを要求する
力が強いということで、これは業界内の企業にとって良くありません。
交渉力が強くなる要因は、商社や小売店側の資金が豊富で取引に市場を動かしうることです。
買い手との交渉に負けてしまうと、値段を下げたり品質を値段以上に向上しなければならないため、業界内の企業の利益が減ってしまいます。
買い手との交渉をうまく行うためには、例えば以下の対策を行うことが重要です。
- 特定の買い手に依存しない(依存を見抜かれ交渉が不利になる)
- 買値の妥当性を分析し、説明する
- 買い手の情報量を把握する(“吹っ掛けて”きたときに対抗できるように)
2-2.売り手の交渉力
ここでの「売り手」とは、商品の資材・材料の提供者のことを言います。
別名「サプライヤー(供給者)」とも呼ばれます。
“売り手の交渉力が高い”と、原材料や商品の仕入れ値のコスト割合が高くなります。
よって、業界内の企業の利益が減る、もしくは適切な価格を保てないという状態に陥ります。
この状況を回避するためには、サプライヤーを代替可能なものにして、契約の縮小や終了を選択肢として持っておく必要があります。
サプライヤーとの交渉を有利に進め、コストが高騰しないようにしましょう。
2-3.業界内競争
業界内の競合他社をリストアップし、既存プレイヤーのパワーバランスを見て事業戦略に活かします。
具体的には、競合の社数、それぞれの経済資源の大小、成長速度、コストなどを分析し、この業界に勝ち目があるかどうかの判断材料とします。
例えば、競合に大手資本が入っている認知度も抜群のサービス・商品があったとしたら、大きな差別化が図れない限り事業撤退をする基準となります。
その他競合プレイヤーの数があまりに多かったり、また競合が軒並み赤字の業界であれば、大きなリソースを投下する必要はなくなるでしょう。
2-4.新規参入の驚異
その名の通り、業界内に新規で参入してくる恐れのある勢力が強いかどうかの度合いです。
今は競合が少なかったとしても、これらの勢力が参入すれば業界内の競合は激化し自社シェアも低下してしまいます。
新規参入がしやすいことを「参入障壁が低い」と言い、この状態を避けたいところです。
参入障壁を高くするためには、例えば以下の方法が推奨されます。
- 商品のブランド力・認知度を上げる
- 追随を許さない技術力を手に入れる
- 圧倒的なシェアを手に入れ価格コントロールする(参入勢力の旨味をなくす)
近年はIT、インターネット領域における技術革新が加速度的に進んでいるため、思わぬところからの新規参入に注意が必要です。
2-5.代替品の驚異
ここでの「代替品」とは何なのかは、以下の格言を聞くとイメージしやすいです。
「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」
「レビットのドリルの穴理論」とも呼ばれ、ニーズである穴を開けられる他の方法があれば、そもそもドリルは必要ではないというものです。
例えば、本が読みたかったとします。30年前であれば、「どの本屋で買おうか」という選択肢しかありませんでした。
よって、各書店は競合に負けない価値(アクセス、品揃え、店員の接客など)を提供しようとしていました。
しかし、今では「Kindleで電子版を購入する」などそもそも紙製の書籍を購入しない選択肢がありますし、書籍を買うにしてもAmazonや楽天などの通販サイトを利用することが多いでしょう。
こうした「代替品」もテクノロジーの発展によって数多く生み出され、既存の市場が大きく変わっています。
書店は2000~2020年の間で半減すると言われていますが、“購入する前の書籍を手にとって確認することができる”点は代替品にない魅力です。
また筆者としては、ポップアップや配置の優劣こそありますが、“インターネット上のレビューによって購買意欲を左右されない”というのもリアル店舗の魅力だと思います。
モノとして貸すことができるのも電子書籍にはないメリットです。
このように、代替品にはないメリットを提示し差別化することで代替品との競合性を弱めることができます。
3.ファイブフォース分析の具体例
「5つの要素は分かった!けど、どう分析したら良いのだろう…」というときに、以下の事例を参考にしてみてください。
3-1.国内ガラケー業界
代替品であるスマートフォンの登場を皮切りに、Appleはあまりに有名ですが、サムスンやファーウェイなどのアジア企業の隆盛など相次ぐ新規参入もあり衰退した日本のガラケー業界。
改めて分析してみましょう。
そもそも“ガラケー”の由来は「ガラパゴス携帯」であり、日本企業の技術力の高さから様々な機能が追加され、海外の企業からすると同等の品質を提供するのが難しく参入障壁の高い市場でした。
しかし、iPhoneの登場により、その戦況は180°変わります。
消費者にとってiPhoneのタッチパネルによる直感的な操作は、「押しやすいボタン」の開発で争っていたどのガラケーブランドよりも魅力的に見えました。
また、iPhoneブランドに対する莫大なマーケティング・広告予算が生む認知度や、通信キャリアが同じであれば機種変更が容易である(=買い手の交渉力が強い)システムから、当初ガラケー開発に関わっていた11社は、今や3社にまで減ってしまいました。
「代替品の驚異」に対して、元から「買い手の交渉力」を抑えておけなかったためにシェアが一気に縮小した事例と言えるでしょう。
3-2.大塚家具
ファイブフォース分析では業界の俯瞰をすることもできれば、1社の視点から見た分析も行えます。
大塚家具は高級家具店として有名ですが、業界内外の動向を見てみましょう。
まず買い手との関係ですが、大塚家具は元々“会員制”で、各会員に担当社員がついて店内を回るという特徴を持っていました。
これはショールーム内での買い手の外部情報を遮断し交渉力を弱める効果があります。
また、担当と顧客との良い関係性を構築できればシェアを奪われる可能性も低くなるため有効でした。
しかし、通販で家具を買うことも珍しくなくなった現在では、価格交渉力が上がっていると言えます。
大塚家具にとって痛手なのは、ニトリやIKEAなどの新規参入企業の驚異でした。
消費税増税などを受けて高級志向が流行りにくい現在、大衆は「安い値段でそこそこのクオリティ」を担保する新規参入プレイヤーの商品に流れていきます。
“お家騒動”もあり、大塚家具は現在ヤマダ電機の子会社となってかつての勢いを取り戻そうと奮闘しています。
3-3.トヨタ
世界に誇るトヨタブランドを業界構造から分析してみましょう。
ライバルとなる国内外の自動車メーカーは、並外れたプロモーション費用を元手に広告宣伝を行います。
いくらトップシェアをと言えども、世間への露出を一度でも怠れば如実にシェアが下がると言えます。
それ以外の要素では大きな危機感はないように見えますが、人口が東京に集中している状態は自動車業界として良くないと言えます。
なぜなら、都市圏に住む人の自動車保有率はそれ以外の地域に住む人の半分以下と言われています。
電車やバスなどの公共交通機関が網目のように張り巡らされ、自動車がなくても十分生活できるからです。
市場を牽引するトヨタとしては、この人口集中を解決することが長期的な勝ち筋かもしれません。
5.まとめ
- ファイブフォース分析は「業界構造」を整理し、事業戦略に活かす分析
- 買い手の交渉力、売り手の交渉力、業界内の競争、新規参入の驚異、代替品の驚異の5つの力から成る
- 競争・交渉力・驚異が総合的に小さい業界はシェアを広げやすい
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