
突然ですが、USJを再建したことで有名なマーケター、森岡毅氏の言葉をご紹介します。
企業の軍師ともいうべき「マーケター」の最初にすべき最重要な役割は「どう戦うか」の前に
「どこで戦うか」を正しく見極めること。
そして正しい方向へ会社を無理やりにでも引っ張っていくことだと、私は考えています。
※出典:森岡 毅 著『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』2016年、KADOKAWA、より引用
「魚がいない釣り堀」でいくら良い竿を使っても釣れないように、収益性の低い業界でどれだけ優れた戦術を
投下しても、十分な利益を得ることは困難です。
そこで役立つのが、業界構造をクリアにする「ファイブフォース(5F)分析」です。
本記事では、
「買い手の交渉力」をはじめとする5つの力の詳細、具体的な事例、そして分析を戦略に繋げる方法解説します。
1. ファイブフォース(5F)分析とは?
1-1. 「5つの力」の概念

ファイブフォース分析とは、
「その業界で利益を出しやすいかどうか(業界の収益性・魅力度)」を客観的に判断するためのフレームワークです。
ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授が提唱したフレームワークで、
業界の収益性に影響を与える「5つの競争要因」を分析し、その業界の魅力(利益の出しやすさ)を評価します。
なぜ「5つの力」を見る必要があるのでしょうか。
それは、企業の利益が「自社の努力」だけでなく、その「業界の構造」によって大きく左右されるからです。
どれだけ優秀な経営者がいても、業界全体の構造が不利であれば、利益を残すのは至難の業です。
5F分析を行うことで、業界内のリスクを特定し、「どの部分に手を打てば収益性が上がるのか」という勝ち筋を見つけ出すことができます。
5つの項目をそれぞれ理解する前に、マーケティングにおける5F分析の位置づけを確認しましょう。
「3. 」にて5つの項目の詳細説明がされています。
1-2. マーケティングにおける5F分析の位置づけ「土俵選び」が勝敗の8割を決める

マーケティングは「①戦況分析 → ②戦略策定 → ③戦術選択」の順に進みます。
5F分析は、この根幹となる「戦況分析」に位置付けされます。
①の戦状分析(土台)がうまく整っていないと、
②戦略策定と③戦術選択もうまくいかない可能性が高くなるでしょう。
実際に、5F分析は収益性も大幅確認することができるのです。
5F分析で「どの釣り堀で戦うか」を見極めたら、次は「その釣り堀でどう動くか」をより多角的に練る必要があります。社会情勢やパートナーとの連携まで踏み込んだ「5C分析」も併せて確認しておきましょう。
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1₋3. 5F分析と収益性
マーケティングでは、
「競争が激しい市場をレッドオーシャン」
「競合がいない市場をブルーオーシャン」と呼びます。
5F分析は、まさにその『海の色の見極め』をするためのツールです。
5Fの力が強い業界は、ライバルとの激しい奪い合いで収益が下がりますが、
逆に、力が弱い業界は競合が少なく利益を出しやすい市場になる傾向があるのです。

2. 「5つの力」の詳細解説
2-1. 買い手の交渉力
「買い手」とは、
顧客や販売パートナー(小売店など)を指します。
買い手の交渉力が高いと、値下げ要求や過度な品質向上が求められ、企業の利益が圧迫されます。
【交渉力が強まる条件】
- 買い手の数が少なく、1人あたりの購入ボリュームが大きい
- 商品が差別化されておらず、スイッチングコスト(他社へ乗り換える負担)が低い
- 買い手が製品のコスト構造や市場価格を詳しく知っている
2-2. 売り手の交渉力
「売り手」とは、
原材料や部品のサプライヤーです。
売り手の力が強いと、仕入れ価格を引き上げられ、利益が減少します。
強まる要因として、サプライヤーが業界を独占している、代替の原材料がない等が挙げられます。
【交渉力が強まる条件】
- 供給元が独占・寡占状態
その部品を作っている会社が世界に数社しかない場合、価格決定権は売り手が握る - 代替品がない
その原材料を使わないと製品が完成しない場合、強気な価格交渉を受け入れざるを得ない - 自社の重要性が低い
売り手にとって、自社が「小さな取引先」である場合、不利な条件を提示されやすくなる
2-3. 新規参入の脅威
新たな競合が参入しやすい業界は、すぐに価格競争に陥ります。
参入を防ぐ「参入障壁」をどう築くかが鍵となります。
障壁の例として、莫大な設備投資、ブランド力、特許技術、規模の経済などが挙げられます。
【新規参入の脅威が強まる条件】
- 規模の経済
大量生産によるコスト削減が不可欠な業界(半導体など)は、小規模な新規参入が難しい - 莫大な初期投資
巨大な工場やインフラが必要な業界(通信、航空など) - 法規制や特許
免許が必要な事業や、特許技術に守られている場合、他社は容易に入ってこれない
2-4. 代替品の脅威
代替品とは、
同業他社の製品ではなく、「同じニーズを別の方法で満たすもの」です。
代替品は、業界の外から突然現れます。
「ハンバーガー屋のライバルは牛丼屋」といった同業種内だけでなく、「映画館のライバルはYouTube」のように、顧客の可処分時間や予算を奪い合う、全く異なるサービスに目を向ける必要があります。代替品のコスパ(費用対効果)が既存製品を上回ったとき、業界全体が消滅するリスクが生じます。
2-5. 既存競合との敵対関係
既存競合との敵対関係とは、
同じ市場でシェアを奪い合うライバル同士の「戦いの激しさ」を指します。
5つの力の中心に位置し、他の4つの力の影響を最終的に集約する「本丸」の指標です。
この力が強まると、利益を削り合う価格競争や、過度な広告宣伝合戦などの「消耗戦」に陥ります。
【関係が激化する条件】
- 業界の成長が鈍化している
市場が広がらないため、相手のシェアを奪うしかない - 固定費が高い
在庫や設備維持のために、利益を削ってでも安売りして数を捌く必要が出てくる - 撤退障壁が高い
設備が特殊すぎて他へ転用できない、あるいはブランド維持のために赤字でも辞められない場合、消耗戦が続く
3. 5つの力で読み解く業界構造
3-1. 国内ガラケー業界
かつての日本メーカーは高い技術を誇りましたが、iPhoneという「代替品」の登場で戦況が一変しました。
| 5つの力 | 分析内容 |
| 業界内の競争 | シャープ、富士通、パナソニックなど11社が乱立 高機能化を競う「スペック競争」が激化し、研究開発費が利益を圧迫 |
| 新規参入の脅威 | Appleが参入し、OSとハードの一体開発という全く異なるルールを持ち込まれたことで 国内勢は対応が遅れた |
| 代替品の驚異 | スマートフォンが台頭し、単なる電話機から「持ち運べるPC・エンタメ端末」へ 需要がシフトし、ガラケーの存在意義が失われた |
| 買い手の交渉力 | 極めて強く、通信キャリア(NTTドコモ等)が販売チャネルと仕様を独占 メーカーはキャリアの要求に従うしかなく、利益率が低下 |
| 売り手の交渉力 | CPUや液晶などの主要部品メーカーは複数存在したが、独自OSの開発コストなど、 自社リソースへの依存度が大きく交渉力は限定的 |
3-2. 大塚家具
「会員制・高級路線」で成功していた大塚家具ですが、
ニトリやIKEAといった低価格高品質な「新規参入」が市場を席巻しました。
消費者のスイッチングコストが低下し、情報を容易に得られるようになったことで
「買い手の交渉力」が強まり、かつてのモデルが維持できなくなりました。
| 5つの力 | 分析内容 |
| 業界内の競争 | 既存の百貨店や地方の家具専門店との競争 かつて会員制により競合情報の遮断が可能だったが、ネットの普及で比較が容易になった |
| 新規参入の脅威 | 脅威は非常に大きく、ニトリ、IKEAなどの低価格・高品質ブランドが台頭 「安くて良いもの」を求める大衆ニーズを奪われた |
| 代替品の驚異 | メルカリ等の二次流通や、家具サブスクリプションサービスの普及 「家具は一生モノ(購入するもの)」という価値観が変化 |
| 買い手の交渉力 | ネットで価格・品質を即座に比較できるため、交渉力は強い ブランドスイッチ(乗り換え)の心理的障壁も下がった |
| 売り手の交渉力 | 原材料(木材等)や仕入れメーカーに対する交渉力は一定数あったが、 海外生産を主軸とする新規参入組のコスト競争力には及ばない |
3-3. トヨタ
世界一のトヨタであっても、「既存競合(VWやテスラ)」との開発競争に加え、
近年はカーシェアリングなどの「所有しない」という「代替サービス」の脅威にさらされています。
| 5つの力 | 分析内容 |
| 業界内の競争 | VW、GM、ヒョンデ等の世界的メーカーとのシェア争い 現在はEV開発への巨額投資が必須で、競争コストが跳ね上がっている |
| 新規参入の脅威 | テスラに加え、ソニーなどのIT・テック企業がEV分野に参入し、脅威が増大中 ソフトウェア領域での競争が激化 |
| 代替品の驚異 | カーシェアリングや自動運転タクシーの普及 若年層の車離れや、都市部での「所有から利用へ」という変化が脅威 |
| 買い手の交渉力 | 消費者の選択肢が豊富なため強い ただ、強力な販売網とリセールバリュー(下取り価格)の高さで、他社への流出を一定数防ぐ |
| 売り手の交渉力 | 部品メーカーへの交渉力は伝統的に強い 車載電池や半導体の不足により、主要デバイスの供給者(売り手)の交渉力が一時的に強まった |
4. 5F分析を「勝利」に繋げる手順
分析して終わるのではなく、具体的なアクションに繋げましょう。
■ 勢力の「強弱」を可視化する
各要素についてデータを集め、自社にとってどの力が最も脅威(収益を阻害している要因)かを明確にします。
■ 脅威を「抑制」できるか検証する
例えば、
「買い手の交渉力」が強いなら、ブランド力を高めてスイッチングコストを上げる。
「売り手の交渉力」が強いなら、複数の供給元を確保するなどの対策を練ります。
■「差別化」または「低コスト」へ昇華
5F分析の結果を受け、
「コストを下げて勝つのか(コストリーダーシップ)」「他にはない価値で勝つのか(差別化)」を決定します。
5. 【まとめ】戦況を捉え、優位性を築く
ファイブフォース分析は、単なる現状整理ではなく、
「利益が出る構造をどう作るか」を考えるための戦略ツールです。
- 「買い手の交渉力」を抑えるための差別化を図る
- 代替品の動向を常にウォッチし、ニーズの先回りを促す
- 参入障壁を築き、安定した利益基盤を確保する
広告のクリック率やCPAを追う前に、
まずはこの記事を参考に自社が置かれた「釣り堀(業界)」の構造を見つめ直してみてください。
「自社の業界構造を分析してみたが、客観的な評価に自信がない」
「競合が強すぎて、どこで差別化すべきか見えない」
「今の広告運用が、業界の構造に合っているのか不安だ」
上記のようなお悩みをお持ちのマーケティング担当者・経営者様に向けて、
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