広告のターゲティング、そして成果計測はどうなってしまうのでしょうか。
2019年9月、AppleはITPのアップデート版であるITP2.3を発表し、iOS 13のSafariを始めAppleが提供するブラウザに順次実装されています。
これにより、Cookieを使ったトラッキング行為は更に制限されています。
ITP2.3で新たに規制された範囲、各広告媒体の対応状況、今後予想される動向などをご紹介します。
1.おさらい:ITPとは
ITP2.3の詳細の前に、ITPについて振り返ります。
1-1.Appleのプライバシー保護機能
ITPとはIntelligent Tracking Preventionの略で、AppleがSafariに搭載しているトラッキング防止機能です。
Appleがこれを行うのは、インターネット広告のターゲティングに高まる嫌悪感・不信感から、ユーザーのプライバシーを守るという意図があります。
GoogleやFacebookなど、広告目的のトラッキングによって収益を獲得している他のGAFA勢力への挑戦とも言えるでしょう。
1-2.日本におけるITPの影響度
ITPの対象となるのは、Safariブラウザでインターネットを閲覧しているユーザーです。
この割合が少なければ、計測における影響も小さいと言えます。
現在の国内スマートフォンのブラウザシェアを調べてみた結果が以下です。
国内のブラウザシェアはSafariが63%と圧倒的に多いことが分かります。
つまり、ITPの影響はスマートフォンに配信する全体の6割以上に及ぶため、計測数値が大きく変わることが予測できます。
対策があればぜひ導入したいものです。
1-3.トラッキングとは
そもそもトラッキングとは何だったでしょうか。
なんとなく分かった気でいても、明確な定義は分からないという人は少なくないと思います。
トラッキングの意味は以下のとおりです。
トラッキング(Tracking)とは、特定の情報収集を目的に、人の行動やシステムの挙動、データの推移などを継続的に追跡することを指します。
コンバージョン計測や、リターゲティングなどの“行動ターゲティング”には、この「トラッキング」を行いユーザーデータを収集する必要があります。
そしてITPとは、Appleがユーザーのプライバシーを守るために実施された、広告を目的としたユーザー行動データの収集を規制する、という機能です。
では、どのように規制をするのでしょうか?
このとき“Cookie”という言葉を理解する必要があります。
1-4.Cookieとは
Cookieとは、Webサイトから発行されるアクセス情報のことです。
テキストファイルとして送信され、ユーザーのデバイスに蓄積されます。
例えば、一度ログインしたページにもう一度アクセスしたとき、ログイン作業が省略されることがあります。
これはログインページのCookie情報を利用して、直近でログインしたユーザーに配慮しているのです。
ECサイトのカート機能なども、Cookieを活用したものが多いです。
一方で、広告のコンバージョン計測や、リターゲティングにもCookie情報が用いられています。
つまり、ITPではトラッキングを規制するためにCookieを削除する必要があります。
この削除する条件や範囲がITPの問題となっています。
また、Cookieにも大きく分けて「1st party cookie」と「3rd party cookie」の2種類があります。
カンタンにまとめると、
- 自社サーバーから発行されるCookie = 1st party cookie
- 第三者サーバーから発行されるCookie = 3rd party cookie
となります。
Cookieとトラッキングについては、以下の記事も参考にしてみてください。
参考:今さら聞けない【Cookieとトラッキングの仕組み】について
2.ITPによる規制範囲の変遷
これまで、ITPは1.0→1.1→2.0→2.1→2.2→2.3と度重なるアップデートがあり、その度削除対象となるCookieの範囲を広げてきました。
その変遷を見ていきましょう。
バージョン | 発表日 | 内容 |
ITP1.0 | 2017年9月 | ・3rd party cookieが制限 過去含めサイト内遷移なし→発行から24時間後に無効 30日後に削除 |
ITP1.1 | 2018年3月 | ・3rd party cookieの制限強化 過去にサイト内遷移があっても、そのセッションで遷移がなければ24時間後に無効 |
ITP2.0 | 2018年9月 | ・3rd party cookieの制限強化 サイト内遷移なし→即時削除 ・1st party cookieも制限 4つ以上のドメインからリダイレクトされている→3rd party cookieと同じく削除 ・トラッカーへのリファラ制限 トラッカー(トラッキングする第三者)と判定された場合、Cookieのリファラ情報が削除 (e.g. http://example.com/service/listing-ads.html → http://example.com) |
ITP2.1 | 2019年3月26日 | ・1st party cookieの制限強化 JavaScriptを利用する場合、最大有効期限が7日に短縮 |
ITP2.2 | 2019年5月13日 | ・1st party cookieの更なる制限強化 JavaScriptを利用する場合、最大有効期限が1日に短縮 |
ITP2.3 | 2019年9月10日 | ・1st party cookieの制限を更に強化 ・localStorageも制限 localStorageの情報も1st party cookieと同じく制限 |
発表時期を見ると、加速度的にアップデートされているのが分かります。
【トラッキングを規制したいApple】対【規制をすり抜けてトラッキングしたいアドテク業界】の戦いが激化していますね。
2-1.ITP1.0
最初に発表されたのは3rd party cookieの制限のみで、「過去含めサイト内遷移なし→発行から24時間後に無効」、また有効・無効を問わずCookieは30日後に削除されるというものでした。
つまり、過去訪問履歴のないドメインのLPから直帰したとき、セッション終了後に3rd party cookie情報が削除されます。
2-2.ITP1.1
1.0の制限が強化され、過去の訪問があっても直帰ユーザーの3rd party cokkieは24時間後に削除されます。
2-3.ITP2.0
ITP2.0で大幅に変更がありました。
3rd party cookieは直帰した場合即時削除。
サイト内遷移がないユーザーはリターゲティングが実質不可能となります。
更にそれだけでなく、本来は広告トラッキングのために使うことのない1st party cookieも規制の対象になり始めます。
なぜかと言うと、当時のITP1.1環境下では、リダイレクトを行い、あたかも1st party coolie かのような3rd party cookieを生成するという方法でトラッキングを行った広告媒体・計測ツールが多かったからです。
また、サイト解析のデータ集計時、トラッカー判定されたアクセスはリファラ表示をドメイン以降削除されます。
この辺りから広告媒体側とのイタチごっこが加速していきます。
2-4.ITP2.1
2.1では、1st party cookieの中でもJavascriptを用いたものの有効期限が7日まで短くなりました。
2-5.ITP2.2
同じくJavascriptを用いたものの有効期限が1日まで短縮されています。
ここまでくると、Safariブラウザでのリターゲティングが相当難しいのが分かります。
3.ITP2.3での新たな規制対象
このように、ITP2.2でも十分厳しい規制がされていますが、ITP2.3では以下の条件を追加しました。
3-1.ローカルストレージの制限
一部の広告媒体では、Cookieの代わりにlocalStorageというでデータを使うことでトラッキング情報を補っていました。
ITP2.3では、それらCookie以外のストレージデータも最大7日間で無効としました。
代替案も即時潰しにかかるアップルの本気度が伺えます。
3-2.リファラーのダウングレード
サブドメイン間の遷移が行われた場合、今まで取得できていたサブドメインの情報がITP2.3環境下では取得できなくなります。
リファラー情報がダウングレードする例
https://sub.social.example/some/path/?clickID=0123456789
から流入したとしても、リファラーで取得できる情報は
https://social.example
となり、取得できるサブドメインがダウングレードされる。
このように、計測の抜け道を塞ぐように規制を強めているのです。
4.広告媒体・計測ツールでの対応状況
この状況に、広告媒体側はどのような対応をしているのでしょうか。
4-1.Appleに同調
Googleはこれまで「クリックID」やタグマネージャーの「コンバージョンリンカー」を使用することでITP対策をとってきましたが、遂に3rd party cookieの使用を取りやめることを発表しました。
2022年までに3rd party cookieの使用を停止するため、Googleは新たなコンバージョン計測技術を開発中だと言われています。
参考:グーグル、広告向け「クッキー」利用打ち切りへ-アップルに追随
AppleとGoogleという、IT界の2大巨人が「3rd party cookieを止めます」と言い出したら、ほかの広告媒体社も追従していくしかありません。
これから数年掛けて、3rd party cookieを使用しないコンバージョン計測がスタンダードになっていくことでしょう。
4-2.CNAME対応で計測
これだけ厳しい扱いとなった広告トラッキングですが、まだ抜け道があったのです。
1st party cookieが制限される条件は、先述のとおり「Javascriptによって生成された」Cookieです。
自社サーバーから直接発行される1st party cookieであればITPの影響を受けません。
これを受けて、アトリビューション計測ツール「ADEBiS」や、DSP「Criteo」で実装されているのが「CNAME対応」です。
自社サーバーのDNS設定を行うことで、完全に現ITP環境を克服することができています。
コンバージョン数を正確に計測したい場合は、このCNAME対応を行える計測ツールを利用するのが良いでしょう。
しかし、ツール上で計測できたとしても、各広告媒体はITP環境下であるため、コンバージョンによる自動最適化はやはり部分的なデータしか取得できないことになります。
そのうえ、いつAppleがまたITPをアップデートして、CNAME対応の対策をしてくるか分かりません。
“その場しのぎ”とまでは言いませんが、長期に渡って安心して計測できる方法とも断言できません。
※「A8」などのASPでもCNAME対応が順次進んでいるようです。
成果報酬のアフィリエイト関係者にとっては死活問題ですよね……
5.まとめ
ITP2.3の概要は以下のとおりです。
- ITPは、Appleがユーザーのプライバシー保護を目的としたトラッキング防止機能
- ITP2.3では、Cookieの代替策である「localStorage」も1st party cookieと同等の扱いに
- ITP適応環境下ではサブドメインのリファラー情報が部分的に取得できなくなる
- AppleだけでなくGoogleも3rd party cookieの使用を取りやめ予定、次世代の定番となるか
- 社内サーバー情報を書き換える「CNAME対応」で一部のツール、広告ではITP下で計測が可能
現在のITP環境下で、完璧にコンバージョン計測を行う術はもうない、と言って良いでしょう。
アドエビスのCNAME対応を行ったり、実際の顧客データをより詳細に分析できるよう取り組むなど、空いたデータの穴を保管する必要があります。
また、Googleが新たなコンバージョンの計測方法を開発した場合、広告主側も何らかの対応を迫られる可能性があります。
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